靴に有害物質!臭い・材料を気にせず子供に履かせて大丈夫?
赤ちゃんがつかまり立ちをし始めた頃、柔らかく可愛い小さな足に、可愛い小さな靴を履かせ始める方が多いのではないでしょうか?
そしてその後よちよちと歩き始め、やがて親に履かせて貰っていた靴を自身で履けるようになり・・・何十年も履き続ける靴。
ところで靴屋に入りますと、商品独特のにおいが店内にしますが、中にはそのにおいで気分が悪くなる人や、購入後に不快感のある強いにおいに気付いたものの、においを取ることが出来ずに泣く泣く捨てる方までいるようです。
そのにおいは何なのでしょうか?
なぜ気分が悪くなったりするのでしょうか?
こちらのページでは、靴の臭いの原因を、原料にまで遡って探っていきます。子供達が毎日長時間履き続ける靴を、体への影響も考慮し選ぶ参考になれば幸いです。
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靴の材料は何?どうやって出来ているの?
まず靴の材料から見ていきます。
靴はアッパー(upper: 靴の底を除いた上の部分)と、ソール(sole: 靴の底・足を支える土台部分)からなります。
そしてよく目にする子供用の靴は、アッパー部は合成繊維(化繊)・合皮(合成皮革)・スポンジ等が、ソール部は合成ゴムやPVC・EVAなどの合成樹脂(プラスチック)などが材料として使用され、それらを接着剤で貼り合わせるなどして作られています。
全て、液体であった原油からできている物質です。しかしどうすれば液体が個体になるのでしょう?不思議ですね。
では次に、材料が原油からどうやって作られるのかを、おおまかにご紹介します。
原油がプラスチックや繊維などの各種材料になるまで
紀元前3000年ごろから利用されてきたと言われる原油ですが、現在のように広く利用されるようになったのは19世紀に入ってからになり、主にエンジン(内燃機関)の燃料としてでした。また同時期に、合成繊維・樹脂・合成ゴムなどが開発されています。しかしそれらが実際に広く利用されるようになったのは、第2次世界大戦後でした。
そして現在では、以下のようにして様々な物質が化学的に作られ続けています。
原油から合成繊維・樹脂・合成ゴム等の材料、ナフサを取り出す
まず原油を加熱し、上の写真にあるような高さ50メートルもある常圧蒸留装置を使い、沸点の差を利用して以下の石油製品を取り出します。
- 30℃以下の温度域・・LPガス
- 30℃~180℃・・ガソリン・ナフサ(石油化学基礎製品原料の基)
- 170℃~250℃・・ジェット燃料・灯油
- 240℃~350℃・・軽油
- 350℃以上・・重油・アスファルト
なお「原油」は精製された時点で、上記の各種類の総称である「石油」と名前を変えます。
そして取り出された「ナフサ」はその後、ナフサ分解炉で熱(約800℃)を加えられ、気体である「エチレン・プロピレン・ブタジエン」と、液体である「ベンゼン・トルエン・キシレン」などに分子の重さによって分類され、プラスチックの基になる石油化学基礎製品原料が作られます。
ナフサから作られた石油化学基礎製品原料はどんな物質なの?
ナフサから作られた化学物質をそれぞれご紹介しますと・・・
エチレン
- 可燃性であることから危険物。
- ファッションバッグやレジ袋、電線被覆、洗剤容器、パイプ、塩化ビニル樹脂、ポリエステル繊維、界面活性剤、合成ゴムなどに使用。
- かすかに甘いにおいがある。
プロピレン
- 可燃性であることから危険物。
- 自動車用のバンパー、包装用フィルム、アクリル繊維の原料、フェノール樹脂、溶剤・可塑剤や塗料剤などに使用。
- わずかに甘いにおいがする。
ブタジエン
- 遺伝性疾患、発がん性、卵巣精巣の障害など多くの有害性を持ちます。
- 合成ゴム、ABS樹脂、MBS樹脂、合成ゴムラテックスの原料などに使用。
- 独特な臭い
ベンゼン
- 発がん性物質である他に、生殖能力の低下、流産、肺での大量出血、呼吸器の障害など、様々な毒性を持つ
- 合成樹脂や合成ゴム、ナイロン繊維、染料、農薬などの原料として、また、消毒剤としても使用。
- 甘いにおいがする。
トルエン
- 不妊、流産、授乳中の子に害、中枢神経系の障害、呼吸器への刺激など、様々な有害性を持ちます。
- シンナー、塗料、接着剤、ラッカーなどに使用。
- 塗料や油性サインペンのような臭いがする。
キシレン
- 不妊、流産、呼吸器、肝臓、中枢神経系、腎臓の障害、皮膚刺激など、様々な有害性を持ちます。
- 塗料、芳香剤、接着剤、油性ペイントなどに使用。
- ガソリンのような刺激臭がある。
どれも独特な臭いを持っています。
なおトルエン・キシレンについては、シックハウス症候群の原因ともなっていることが判明し、建材への使用量はある一定レベル(健康な成人男性に影響の出ない範囲)にまで落とされています。
シックハウス症候群については、下記のページにてご紹介しております。
>> シックハウス症候群を予防する|24時間換気方式の選び方
石油化学基礎製品原料は化学反応を経て個体へ
では石油化学基礎製品原料をどうやって個体にするのか?こちらについては少し?説明が難しくなります。
ナフサから作られた原料は、それぞれ単量体(モノマー)分子として存在しています。その分子(モノマー)どおしを化学反応により結合させ、重合体(ポリマー)を作り出しています。
例えばポリエチレンですと、10気圧、60-80℃の条件にした無水キシレンなどの溶媒中にエチレンを吹き込みます。そうしますとエチレンの分子同士が結合して重合体が出来、沈殿してきます。この溶液にアルコールを添加し、触媒を分解した後に、溶媒(無水キシレン)を取り去り、洗浄、乾燥させますとポリエチレンの粉末が出来るそうです。
目には見えない小さな小さな分子を結合させることで目で確認できるサイズの物質にし、ポリエチレンをつくる時に使用した化学物質は邪魔なので取り除いた、ということです。
例えが悪いかもしれませんが、分子同士の結合にポイントを当てますと、冬期間に、目には見えなかった空中の水分(H2O)が冷やされて氷になり、その氷に水蒸気(H2O)がどんどんくっつき、私たちの目に見える雪(H2Oの塊)になるという感じでしょうか?
そしてそのポリエチレン粉末に、用途に合った特性を持つように添加剤を加え、加熱・成形し、ペレットにして出荷されます。
なおペレットとは、ビーズクッションの中身のような粒状のものになり、納入先で再度加熱され、最終的にラップや袋、食器や靴の材料としても使用されているEVA樹脂などの、様々な製品へと生まれ変わるのです。
※PVC(塩ビ)と同じく靴のソールに使われるEVA(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)は、エチレンと酢酸ビニルを共重合させた樹脂になります。
分子をどのような方法で重合させるか、また、単体で重合させるのか、別の分子と共重合させるかなどによって、特色の違う化学物質を作り出しています。
なお酢酸ビニルは甘い香りのする液体で、吸い込むと咳・息切れ・めまい・意識喪失、皮膚に付きますと赤みや痛みがある他、発がん性物質であること、遺伝性疾患の原因となる化学物質になります。
次に靴のソールによく使用されている、PVC(ポリ塩化ビニル)についてご紹介します。
PVCとはどんな樹脂なの?何で作られているの?
PVC(ポリ塩化ビニル)は靴のソールによく使われている樹脂になります。
またPVCは、「ビニール」や「塩ビ」とも呼ばれ、強度や耐候性に優れ、塩ビパイプなどの硬い製品だけでなく、衣類やバッグ類、前述致しました靴のソールのクッション材のような柔らかい製品にもなるなど、非常に加工性が高い樹脂となります。
ではPVCがどのようにして作られているのかをご紹介していきます。
PVC(ポリ塩化ビニル)の原料は?
PVCの原料は、ナフサから分留されたエチレンと、塩素になります。
塩素
- 吸入すると生命に危険(気体)
- 重篤な皮膚の薬傷・眼の損傷
- 呼吸器系、神経系の障害
- 長期又は反復ばく露による呼吸器系、腎臓、嗅覚器の障害
- 長期又は反復ばく露による歯の障害のおそれ
- 水生生物に非常に強い毒性
引用:「SDS 二酸化エチレン」厚生労働省 職場の安全サイト
塩素は今の私たちにとって非常になじみ深い化学物質なのですが、それゆえにあまり気になさっている方が少ないようにも思います。
赤ちゃんや幼い子ども、妊娠中や授乳中、体力が落ちている方などは、塩素から受ける影響はとても大きくなります。間違っても塩素消毒や、塩素を含む洗剤を屋内で使用しないで下さい。赤ちゃんの髪が立ったり、よだれが出るだけでは済みません。
中間原料、二塩化エチレンを作る
塩ビモノマーは、エチレンと塩素から直接作られるのではなく、中間原料から作られることになります。
まず、原料のエチレンと塩素を合成し、中間原料の二塩化エチレン(EDC)を作ります。そして二塩化エチレンを熱して塩化ビニルモノマー(VCM)を作り、これから塩ビ(PVC)を生産しているのです。(※正確には、上記の「直接塩素化法」のほかに、二塩化エチレンから塩ビモノマーを作る際に発生する塩化水素をエチレンと反応させ、中間原料の二塩化エチレンを作り、それから塩化ビニルモノマーを作る「オキシ塩素化法」の2つの製造法を併用しています)
ちなみに二酸化エチレンは特徴臭がする液体になり、安全性は以下のとおりです。
二塩化エチレン(1,2-ジクロロエタン)
- 飲み込むと有害
- 吸入すると有毒
- 眼刺激
- 遺伝性疾患のおそれの疑い
- 発がんのおそれの疑い
- 中枢神経系、血液、肝臓、腎臓、呼吸器、心血管系の障害
- 眠気やめまいのおそれ
- 長期にわたる、または反復ばく露により神経系、肝臓、甲状腺、腎臓、血液の障害
- 飲み込んで気道に侵入すると生命に危険のおそれ
- 水生生物に有害
引用:「SDS 二酸化エチレン」厚生労働省 職場の安全サイト
そして塩化ビニルモノマーは、甘いにおいのする気体になり、安全性は以下のとおりです。
塩化ビニルモノマー
塩化ビニルモノマーは皮膚を刺激、損傷し、生殖細胞変異原性、発がん性のおそれがあります。 長期、または、反復ばく露により特定臓器の障害を起こします。
引用:「GPS/JIPS 安全性要約書 塩化ビニルモノマー」株式会社カネカ
靴のソールの柔らかさはどうやって出しているの?
塩ビ製品には、本来の硬い製品の「硬質塩ビ製品」と、柔らかい製品の「軟質塩ビ製品」があります。本来は硬い塩ビに、可塑剤(かそざい)を含ませてフィルム、ホース、農業用塩ビフィルム、おもちゃや靴のソールなどが作られるのです。
可塑剤(かそざい)
熱を加えることで形を変化させることができる合成樹脂に添加し、柔軟性や耐候性を改良するために使われる添加剤。
なお可塑剤には、フタル酸系、アジピン酸系、リン酸系、トリメリット酸系など、数多くの種類がありますが、PVCに多用されているのがフタル酸エステル類になります。
そしてそのフタル酸エステル類でも代表的なのがフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、別名DEHPになります。
フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)
(DEHP・フタル酸ジオクチル・DOP)
- 軽度の皮膚刺激
- 眼刺激
- 発がんのおそれの疑い
- 生殖能又は胎児への悪影響のおそれ
- 長期的影響により水生生物に有害のおそれ
引用:「フタル酸ジオクチル 安全データシート(SDS)」昭和化学㈱
なおDEHPは殆ど無臭の液体になります。
そしてこのDEHPは、内分泌かく乱作用を持つことがわかっており、人体への影響を問題視する声が年々高まってきており、代替品への切り替えが一部進められています。
しかし、大量に長期間使用されてきたDEHPだからこそ、危険性が判明したのだということを頭の隅に置いていて下さい。有害性の立証には多くの検体と時間が必要なのです。(なお検体とは、商品を使う全ての人のことです)
内分泌かく乱物質(環境ホルモン)については、下記のページでご紹介しております。
⇒ 環境ホルモンから子供を守る!生殖能力だけでなく知能にも影響が
有害性ゼロは無理!しかし少なくとも揮発(におい)には注意を
これまでご紹介してきましたように、ソールの材料であるPVCを作るだけでも様々な化学物質が使われているのですが、どれも安全なものではありませんでした。
そして塩ビ樹脂製品にはその他に、安定剤(鉛・有機スズなど)、滑剤、可塑剤、着色剤、改質剤なども使われ、様々な用途に合った製品へと加工されます。
そして残念ながら、それらの添加剤も「安全」ではありません。
100%安全な靴を求めることは、今の世の中では難しいと思います。しかし、「においがする」ということは使われた化学物質が揮発しているのだということだけは覚えていてください。化学物質の中にはほとんど無臭の物もあるのですが、多くは石油から作られているせいか、においを持っています。
そしてすぐにサイズアウトする子供の靴は特にそうですが、安価な商品が求められていながらも機能性や外観も同時に必要とされているため、質が良くないものをよく見かけます。基本的に安価な商品は、安価な材料と人件費を削減できる方法で作られます。
また、素足に直接履かせるサンダルには特に注意し、においの無い商品を選んで下さい。製品と接触することで直接子供達に影響を与える物質も存在します。
なお幼い頃化学物質によく反応した私の子供が履いている靴やサンダルは下記のページでご紹介しております。
>> 揮発(におい)が少なく履きやすい靴は?子供に少しでも安全な靴を
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
あなたの大事なお子様が健康に育ちますように。
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